ひねくれ作家様の偏愛
「千弥さん……」


ほら、現に腕を伸ばそうとした時には、すでに彼女は俺の代わりにコーヒーメーカーの前。
鼻歌まじりに自分の好きなコーヒーをメジャースプーンですくい上げている。

コーヒーを飲むと彼女はもう帰る時間だ。
俺は玄関先まで送りながら、ついつい未練がましいことを言ってしまう。


「……今夜は……来られそうですか?」



ライトノベルの部門でチーフをやっている千弥さんは、先々週から激務が続いている。
もともと忙しいけれど、ちょうど様々なイベントが重なり、ここ半月は週末も職場にこもりっきりだった。


「あー、今夜は無理っぽいかも」


「校了、昨日って言ってませんでしたっけ」


「いやー、実はお一人締め切りに間に合いませんで。今日の12時までにあげてもらう約束で印刷所止めてるんだ。その後、会議と原稿チェック……」


千弥さんは頭をかきかき苦笑いだ。
そんな人の好い笑顔を見せてる場合じゃないだろ。実質校了日延びてるじゃないか。
さらに予定がすし詰めって。
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