ひねくれ作家様の偏愛
「明け方だろうし、邪魔ならいいんだけど」


遠慮がちな声を力強く否定する。


「何言ってんですか。うちで寝ればいいでしょ。何時でも合鍵で入ってきてください」


千弥さんがほっとしたように頬を緩めた。
可愛い。この人は本当に可愛すぎる。

そしてそこにも問題がある。
色々抜けている彼女は自分が可愛いと気付かず、無意識に隙ありまくりの笑顔を振りまく。

この人に懸想しているのは、あのアホの飯田だけじゃないはずだ。職場はもちろん、関わるラノベ作家の多くは男なんだから。

虫除けしたい。
スプレーかなんかで発売されればいいのに。成人男性を寄せ付けない虫除け。

しいて言うなら、千弥さんの女子力ゼロの装いこそ虫除けに近い効果は発揮されているかもしれない。


「じゃ、そうさせてもらうね。ありがと」


千弥さんが髪をさらっとなびかせてドアの向こうに消えるのを、俺は黙って見送った。
明日の朝にはまた会えると思うと、触れることもできなかった無念が少し薄れた。



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