ひねくれ作家様の偏愛
「ジムにでも行ってくるか」


俺はスポーツバッグの準備を始めた。
近所のスポーツクラブは高校時代から通っている。

ウォーターフロントと古い港町の融合であるこの地域のスポーツクラブは、じいさんばあさんの社交場と化している。

千弥さんも知らないことだけど、俺はこのじいさんばあさんに人気があり、2・3日にいっぺんは顔を出さないと心配されるのだ。

じいさんばあさんは俺が作家であるとは知らず、学生か何かだと思っているようで、すっかり俺も茶飲み仲間の一員だ。

一度なんか顔を見せなくなったじいさんを、団地の部屋まで探しに行ったこともある。
ぎっくり腰で身動きが取れなくなっていたじいさんをジム仲間のじいさんばあさんと病院まで担ぎ込んだっけ。

……絶対、キャラじゃないから、千弥さんには言わないけれど。


ぴんぽーん。

部屋のチャイムが鳴ったのは、俺がスポーツバッグを手に玄関までたどり着いた時だった。

嫌な予感がする。

俺はスポーツバッグをシューズボックスに突っ込み、ドアを開けた。


「おこんにちはぁ、海東センセ」


そこにいたのはアホの飯田こと、アプリグループの飯田毅だった。






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