ひねくれ作家様の偏愛
鈴村さんがふざけて言う。この直属の上司はいつもこんな調子。
確かにキャバクラは鈴村さんに先日連れて行かれた。


「私、女ですけど。忘れてません?」


「あ、そうだっけ?でも、この前のキャバ嬢、桜庭のこと好きなタイプだって言ってたぞ。ウブな大学生みたいだって」


「女子に好かれても嬉しくないです」


ウブな大学生って……。男子の上にチェリーボーイに見えるんかい、私は。

しかも情報が新しい様子を見ると、鈴村さん、直近であのキャバクラ行ってるな。


「なあ、桜庭。今、鈴村とも話してたんだけど、海東の坊ちゃんはまだ書けなさそうか。あの、『アフター・ダーク』の僕ちゃん」


横でデスクにお尻を引っ掛けるように座っていた木原編集長が口を出す。
『アフター・ダーク』は言わずと知れた海東くんの代表作。

私は居心地悪そうに背筋をちぢこめながら答える。


「次の会議に間に合うよう、調整中です」
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