ひねくれ作家様の偏愛
打ち合わせとは海東くんが使う便利な言葉で、たいていは言葉通りにならない。
すぐに「嫌」を顔から引っ込めたけれど、そんな一連の挙動を海東くんが見逃すわけはなかった。


「いや?……とは言わないですよね。桜庭さんが言ったんですよ。次の出版会議は通したいって」


海東くんがソファにふんぞり返った格好で言い、私は渋々向かいに座る。

このヤロー。仮にも私は年上だぞ。
担当編集の足元を見てくれちゃって。


「じゃ、早速だけど……」


「無粋ですね。コーヒーを飲んでからですよ」


私の言葉を打ち消す海東くん。
面倒くさい男。
きっとこの後も、打ち合わせなんかに応じる気はないだろう。


「そうですね、最近編集部であった面白い話でもしてください」


急に振られて面白おかしく語れる話があるわけない。
そもそも、私を噺家ではないし、彼に常日頃笑える話を紹介する習慣もない。

私は「何もないよ」と受け流しコーヒーを飲んだ。
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