ひねくれ作家様の偏愛
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翌日、出社して朝一のミーティングを終えるとすぐに小松が声をかけてきた。
「桜庭さーん、海東先生からお電話ありましたー」
「え?あ、そう」
海東くんの名前にどきっとする。
スマホを見るけれど、彼からの着信はない。ってことは、最初から会社にかけたんだ。
なんだろう。
「伝言を承りました。珍しいことに」
いつもは邪険に扱われている小松が、驚いた顔で言う。
「『先日の件、今日の15時に打ち合わせしたいので来てください』だそうです」
「先日の件~?」
心当たりがない。いつもどおり、彼が私に相談せずに自分の流儀だけを知らしめす小説を書き、私がそれをボツにする。
その流れが『先日の件』だろうか。
「あれ、違いました?私何か聞き間違えちゃいました?」
「あ、いいの、いいの。小松はたぶん合ってるよ。伝言ありがとね」
15時に海東くんの部屋。
それまでに仕事をまとめなきゃ。
私はわけもわからないまま、目の前の仕事にかかる。