ひねくれ作家様の偏愛





15時ちょうど。
いつも通り合鍵で中に入ると、海東くんはリビングにいなかった。
タイピングの音がするので、仕事場にしている窓のない部屋にいるようだ。


「海東くん、入るよ」


私はノックして、ドアを開けた。
仕事部屋とは思えないオレンジのLEDライトが照らす部屋。
海東くんはパソコン前に座り、仕事をしているようだった。


「書いてる最中?また、日を改めようか?」


「昨日、見ましたよ」


海東くんは手をとめることなく言う。


「市ヶ谷で」


「あ、やっぱりあそこにいたの海東くんだったんだ」


私は普通の口調で返したものの、脳裏に昨夜の海東くんの冷たい表情が浮かび、居心地悪くなった。
当の本人は、私に背中を向け、今どんな表情をしているのかまるでわからない。

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