ひねくれ作家様の偏愛
「してないよ、何も!」


私は幾分荒い声で言い返した。
それを受け、普段慇懃無礼な敬語を使う海東くんが、強い素の口調で怒鳴った。


「あんたは仕事のために俺とだって寝ただろ?そーいう女だって、知ってんだよ!」


それは、一番言葉にされたくなかった事実。

私は怒りと羞恥で不覚にも頰が熱くなる。
しかし、負けじと彼を睨み返した。

怒るな、冷静に話そう。



「……海東くん、お互いのためにあまり余計な思い出話はやめよう」


私の鋭い瞳と静かな口調に、激昂していた海東くんの意識が、わずかに平静に振れた。


「桜庭さん……」


「私が誰と付き合うとか、そういうのは関係ないことだよ。きみの仕事には。原稿がないなら帰るね」


今度こそ、彼の檻から抜け出ると、私は仕事部屋から出た。
海東くんも続いて出てくるけれど、彼の方は見ずに玄関に向かう。
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