ひねくれ作家様の偏愛
①
海東智はいつだって傲慢であり、支配的だった。
私はイエスマンではなかったけれど、海東くんを尊重して逆らう物言いはしなかった。
それが彼の我儘を助長していると知っていた上で、敢えて何もしなかった。
海東くんが命令してくるのも、嘲ってくるのも同じように受け止めた。
新人編集者の私にとってはそれが仕事だった。
『アフター・ダーク』のノベライズ化。
それができれば、社内では実績になり、私個人としては夢が叶う。
大好きなストーリーに寄り添い、作り手のサポートができるなんて、こんな幸せはない。
だから、私は海東くんに従ってきた。
あれは『アフター・ダーク』のノベライズ、第一作目を海東くんが執筆中のことだった。
『桜庭さんて、俺の言うことは何でも聞くんですね』
ふと海東くんがそんなことを言った。
彼を口説くため、確かにそうしてきた。
でも、面と向かって言われると困惑する。