わたし

圏外

電話が圏外だ。

昼間、山崎ちゃんと話してから、井上さんに会いたくなった。

家に着いてしまうと、食事に誘われなくなる。
もう少し時間を潰しておこう。

ブレンドとワッフルをトレーに乗せて、窓際に座った。

テーブルの上には、携帯とブランド手帳を置く。
必ず置く。
携帯を気にしながら、手帳を開いた。

相変わらず、右側の列。青と赤の色がついている所しか、埋まっていない。
そこに、一生懸命書き込む。
公衆の面前で書き込む。
部屋で手帳を広げる事は、ほとんどない。


リダイアルしてみた。まだ圏外だ

若いカップルが痴話喧嘩をしていた

「欲しいの~。あの財布が!」
「何でだよ。何でも良くね?財布とか」

彼女はど~やら、高級ブランドの財布をねだっているらしい

「大事にするもん。長く使えるから、良いんだよ!」
「ってかさ、財布の方が高いじゃん。中身より」

まぁ、大抵の人がそうだね。

「ブランド物持ったら、自分まで高くなる気がするだけじゃん。」
「も~。いいじゃーん!」


リダイアルしてみた。やっぱり圏外だった。
ブレンドを急いで飲んで、席を立った。
ワッフルは食べなかった。

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