ひとしづく
 頬を撫でる風、と言うには少し強すぎる風が、ぴゅるりと音をたて走り去る。今日は春1番らしく、朝のニュースでも何やら騒いでいた。
「はぁ…」溜息を吐き出すと、長い坂道に反射したように向かい風が吹いた。
 四月の始めの日曜日、僕は学校へ入学式と言う儀式に参列すべく、通学路である坂道を登っていた。
「あ、榊。おはよー、久しぶりねー…って、そうでもないか」肩に友人の手が置かれる。相変わらずのでかい声だった。
「あたしとあえなくて寂しかったでしょー? ソコとか、あっちがさ?」意味不明な事を言いながら僕の視界に入ってくる。
 青色がかったロングヘアに桜の髪飾りを刺した何処か古風な感じのソイツが、いししと笑う。
「なんてね、じょーだん。びっくりしたぁ?」
 朝っぱらからにこやかなそいつの顔を僕はキッと睨み、恨めしい声で言った。
「黙らないと、ここで速攻犯すぞ」
「……」
 ソイツ―阪上命理(さかがみいのり)―は僕の冗談に眉をひそめいかにも嫌そうな顔をする。
「………」
「………」
「…いやん」自分の体をだいて、言った…。
 アホの娘か。
 朝っぱらから変な奴に絡まれたと、ため息をつく。いー、と白い歯をみせ笑う阪上に、複雑な気持ちを思い出す。
(また、始まるのか…)
 坂を登りきって直ぐ、見えてきた学校の校舎を見上げて、呟く。

「今度は、誰一人死なないといいな。」

そこでは当然の様に、桜の花が舞っていた。
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop