艶楼の籠
私は、あれよあれよと座敷へと通されてしまった。
なぜ、ここまで来てしまったのか…。もっと強く拒否できたであろう。
場違いである気がして、後悔している。
「……はぁ。」
スッと襖が開くと、男がいた。
「俺が来たってのに、どうしてそんな暗い顔をしている?」
私の横へ座り、顔を覗き込んできた。
「っ!!」
綺麗な顔が近すぎて、声が出ない。
「くっく……!その真っ赤な顔!……たまらんな。もっと、赤く染めてやりたくなる。」
私の頬に指を伸ばし触れられる。
真っ直ぐな瞳で獲物を見るような視線。
「こんな事で赤くなっていたら、雅はこの先どうなるのかね?」
頬の指は、下唇へ移動し、ゆっくりとなぞっていく。
私は、完全に思考が停止している。
「あの……っ。私っ……!」
「どうしたんだ?やっと声が出るようになったか。雅が嫌がることは何ひとつしない。……さっきは、驚かせちまったな!」
この人の名前をちゃんと聞いていない。
「私、あなたのお名前をちゃんと聞いていません…。」
男は、驚いた顔をしている。
「参った!すまん!俺の名は、椿。一応ここの看板だ。どこまで話せばいい?」
「私……本当に何もわからないんです。だから…。」
野暮ったい奴と思われただろうか。
世間知らずと呆れられてはないだろうか。
「そーかい。そーかい!それじゃあ、今宵の宴は、雅にとって初めてなんだな!………俺が手始めに、全て教えてやろう。ここでの戯れ方をな?」
豪華な料理やお酒屋などが、部屋に入ってくる。そして、沢山の人で溢れかえっている。唄をうたい、舞を披露し、なんとも煌びやかな世界中だ。
「あの…私こんなに頼んでいません…!」
「くっく…そりゃそうだ!俺が頼んだからな。酒でも飲みながらゆっくり説明していこう。…そして、雅のことも知っていきたい。…ほら飲むぞ。上等な酒だ。」
ゾクリとするような声で言われ、手に杯を持たせられ、並々と酒が注がれる。
口元まで杯を持って行くと甘い香りがする。
喉がチリチリと焼けるような感覚だ。