艶楼の籠
初めて
華やかで、煌びやかな世界の裏には、女の誠の欲と男の偽りの愛があった。
儚く…脆く…浅ましい。
初めての世界に頭がグラグラする。
全て初めてのことばかりだった。
艶やかな男達も…。
この場所も…。
酒も…。
人肌も…。
「…はぁ。」
「………色男を前に溜息とは…野暮だねぇ。」
「へ!?寝ていたんじゃ…?」
「客が寝る前に1人で寝れるもんか。」
妙に納得してしまう。
一流の艶楼だ。
「すみません…。」
「なぜ謝る?」
私が眠れないせいで、睡眠を妨害しているようなもの。
「私が眠らないからです…。」
「初めて会った男と、床を共にするんだ。無理もない。………俺だって初めてだ。」
幾晩も女を抱いてきた人が、初めてとは…信じがたい。
「初めてとは…?」
「床を共にするのは、馴染みの客になってからだ。一度ここへ来たからと言って、一夜を過ごすことはない。だから、雅は特別なんだよ。わかるか?」
特別という言葉にドキリとする。
私は、一体なんなのか。
「それは……。」
「俺らは、客を選ぶんだ。気に入らない客とは、宴会をして杯を交わすまで。口付けなんぞ、もってのほか。」
この言葉が誠であるならば…私は、喜んでいいのだろう。
しかし、喜んでいいものか私にはわからない。
この人の言葉に一喜一憂出来るのも、限られた人ということか。
ならば男達は、望んだ相手と一夜を共にすることも出来ないのだろう。
女が自分を選ぶ可能性も低くなる。
夢を売る商売だとしても、あまりにも可哀想だ。
もう、聞きたくない。考えたくなかった。
「私、眠りますから。椿さんもゆっくり眠って下さい。おやすみなさい。」
「ゆっくりと休みな。」
籠の中の商品として買われ、望まない相手と一夜を共にすると思っていたが、男達も客を選べるのだ。
男も女も一方通行なもので…。
本当に手に入れたいものは手に入らない世界。
悲しい。
もっと、自由に出来れば…。
そんなことを考えているうちに、何時しか眠りに落ちていた。