艶楼の籠
「おい!なんの騒ぎだ。俺の客人がどうした?」
威勢のいい声がすると、腕を組み仁王立ちしている姿が目に入る。
「椿さん…っ。」
「もてはやしてんのは、櫻生…お前か。」
その声は、恐ろしいと思う程低い。足が竦んでしまう…。
「あー。怖い怖い。…でもさ、椿は、そんなこと言える立場なのかい?昨晩は、部屋を出て行ってたじゃないかい。」
「っつ!」
驚いた顔をする椿と余裕の顔をする櫻生の間に入り、優しく声を掛ける桔梗。
「椿…本当なのか?寝所に客人を1人にすることも…御法度であろう。」
「…………。あー、うるせぇなぁ。事実だが…ちと、用事があったんだよ。」
釘を刺すように追い討ちをかける櫻生。
「用事?客人を1人にしてでもしなくちゃならない程のものだったのかい?」
重い空気が4人を取り巻く。
「あの!私がお願いしたんです!1人で寝かせて下さいと!…もう、大分遅い時間でしたし…宿として泊まらせて下さいと無理なお願いをしました。…ここでの遊び方を知らなかった私の責任です!すみませんっ!」
3人の男達は、呆気にとられている。
嘘はついたが事実である部分も大きかった。
「朝から騒がしいと思って来てみりゃ、そういうことだったのかい。」
聞き覚えのある女の声がした。
「げっ!鬼婆ぁが来やがった…!」
「よしなさい。椿。」
椿をキッと睨み付ける視線に、私が怖じ気づいてしまう。しかし、直ぐに私と目があった。
「お嬢ちゃん。理由は、わかったよ。こっちが無理強いして、すまなかったね。本来ならば、ここへの出入りが禁止になってもおかしくない事態……椿だってそれ相応の罰がある。しかし、理由が理由だ。それに、椿が連れてきた初めての客人だ…今回は、なかったことにしてやろう。」
「……ありがとうございますっ!私はともかく、椿さんはここへ居られるんですね!」
さっきまでの緊張感が無くなり、心から安堵した。
椿を求めてやってくる客が落胆しなくて済むのだ。こうしてまた客は、一夜の夢を椿と共にできる。
「あぁ。そうだよ。これでも、うちの大切な看板男だからね。もちろん、お嬢ちゃんもここへ遊びに来た時は、初めから選んで構わないよ?椿でなくたって平気さ。」
「はっ?!どういうことだ?!」
すぐさま問いただす椿。
「お前が連れてきた客人だが、罰を与えない代わりの手立てだよ。」
「嘘だろう!!」
「いやー。良かったじゃないか!苦しい罰より、よっぽどいいさ!」
「…客人の前で醜態をさらして…恥ずかしい。」
賑やかで可愛らしい人達だ。夢を売っている人とは思えない程。