艶楼の籠
家の前に着くと、どれだけ叱られるのかを覚悟しながら扉を開けた。
「只今帰りました…。」
小さめの声で玄関を入る。
「雅!?どこへ行っていたの?!…良かった…無事で……!」
母は、父の肩にもたれ掛かるように体の力が抜けていく。
「雅。後で話は聞こう。着替えて来なさい。」
「はい…。」
どのような、処罰があるのだろう。
一夜の外泊など今までしたことがなかった。ましてや、無断で。
「お父様…。お話よろしいですか。お母様は…?」
母の姿がない。
「奥で休んで居るよ。昨晩は、眠れず起きていたんだぞ。…それで、昨夜はどこに泊まったんだ?」
「人助けをした、お礼にと……華やへ泊まりました……。」
「華やだと…?」
父は、明らかに怒っている。
「はい…。無断で外泊をしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「どんな場所であるかわかったか……。年頃の雅が………。しかしあそこは、うちのお得意様だ。まぁ、近々雅も出向いて行くことになってたからな。顔見知りである方がいい。」
うちのお得意様?
あの豪華絢爛な着物もうちが卸している…。
「お得意様だったんですか…。」
「それで、いい男が沢山いただろう?」
ふわりと笑う父の顔を見て、緊張が溶けた。
「そ、それは………とても…………。」
「ははっ。そうだろうなぁ。雅が顔を赤くして当然だ。私からも、華やには礼を伝えておこう。今日は、寝込んでいる母の代わりに店を任せたぞ。」
「は、はいっ!」
こっぴどく叱られると思っていたが、拍子抜けしてしまう程だった。
父の優しい言葉の裏には、店を任されている責任の重さを感じた。
自分の着付けをし、気持ちが引き締まった。
店の開店前に店内の清掃と、帳簿を見直し、頭に叩き込む。
「よし!!」
昨日の出来事が夢だったように、私は忙しく働いていた。