艶楼の籠
しばし、通された座敷で待っていると、富さんがやってきた。
「ごめんよ。お待たせ。」
「いえ!では…こちらがご注文頂いていた品です。確認を…。」
着物を一着ずつ確認している。
「今回も、良いものばかりだね。雅さんのお父様が見たててくれたものは、本当にいつも素晴らしいね。」
「……私も父を尊敬しております。…はっ!すみませんっ!」
身内のことを謙遜もせずに、ポロッと本音を言ってしまった。
「素直でいいじゃないか。あいつらにも、素直さを分けてやっとくれよ。」
冗談混じりに言うその表情は、とても柔らかいものだった。私もつられて、笑顔がこぼれてしまう。
「ふふっ。富さん…優しい表情になっています。とても、皆さんを思ってらっしゃるような…。」
「…親…いや、兄弟のようなもんだからね。でも、雅さんのお父様には負けるよ。こないだ、娘が世話になったと、直接礼を言いにきてくれたよ。」
父がここへ?
いつも、忙しくしている合間をぬって訪れていたなんて…。
「そうでしたか…私…改めてお礼をしていませんでした!ありがとうございました!…先ほども、助けていただいたのに…。」
「あっはっは!気にしないでおくれ!…本当に雅さんは、素直で可愛らしい。あいつらが、夢中になるのも納得だよ。」
富さんが笑うと、花が咲いたように華やかで、可愛らしい。
でも…あいつらが夢中という言葉が引っかかった。
「どういう意味でしょうか…?」
「そのままの意味だよ!客人に、あんな首を突っ込む姿は、みたことないねぇ。なにより、雅さんの素直さに…心撃たれたようだね。」
胸がドキドキとしてしまう。
私を客として通って欲しいからなのかもしれない。
けれど、胸の高鳴りはおさまらなかった。
「今夜、誰かと宴をあげないかい?きっと、皆が望んでいることだよ。」
「でも……私には宴をあげるようなお金は…。」
「平気さ。あいつらは、何かしらの事情を抱えて生きてる。だから、心が荒んで、ひねくれてしまう部分もあるんだ。雅さんの真っ直ぐな気持ちで、あいつらの心の闇を取り除いてやって欲しい。あたしでは、無理だ。…こんなことをお願いする日がくるとはね…。」
ふと、悲しげな瞳、表情を見せたことを思い出す。
心の闇…。
彼らが抱えている事情。
「私如きが出来るかどうかわかりませんが…。」
「雅さんなら、大丈夫さ!…でも期間をつけさせておくれ。1人を指名してから7日間だよ。いいね?」
たった7日間で何ができよう。
しかし…。彼の為になるのなら…。
「わかりました。よろしくお願いします。」
私の気持ちは、固まった。
心に決める人は、あの人。
「では……今宵は、どのようなお戯れをお望みで?」
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ここからは、3人別々に書いていきます。
・椿
・櫻生
・桔梗
それぞれを選んだ後の章を書いていきます。