艶楼の籠
甘い囁きを重ねて、椿は華の王の座へ這い上がったのだ。
「なぁ。もっと聞かせてくれよ……ん…っ。」
首筋に唇を移動させると、口づけを何度も落とす。
「つ、椿さんっ!……あ…私…そんなことするつもりじゃない……っ。」
「…そんな事ってどんな事だ?…ん?」
どこまでも甘く囁かれてしまっては、身体の力が抜けきってしまう。
「そ、それは……っ。」
自分でも、いやらしいことは考えていなかったはずなのに…言葉を詰まらせてしまった。
「からかって悪かった。…本当に…うぶだなぁ……こっちが、本気になっちまいそうだ。今日は、何もしない。一緒に朝まで過ごしてくれ。」
「…ふぅ……。」
その一言に安心してしまった。
身体は、お互いの背中が合わせられる。
椿なりに私の乱れた寝間着姿を見ないように配慮してくれているのだろう。
しかし、心のどこかで残念と思っているのはなぜか…。
「そんなに、あからさまに安心なのかされると……調子が狂うな…。前にも話したが…ここに来る女達は、俺と一線を越えようと必死だ。雅みたいな奴は、出逢った事がないぞ。」
ここへくる女達は椿を手に入れようと、豪勢な宴をあげ、気に入られようとする。
私も1人の女だ。
彼の客人の1人になりたいのか。
富さんに頼まれたからなのか。
ただ…女である喜びを知りたいのか。
答えは、わからない。
けれど、私自身が彼の力になりたいと望んでいることは確かだ。
「……だから、夢中になるのかもな。あの河原で会った時から…雅の澄んだ瞳が忘れられないんだ。」
それは、私に会いたいと思っていたと解釈していいのだろうか。
キュッと胸が締め付けてられる。
「私も、椿さんの……時々曇らせる表情が忘れられません。だから…少しずつ椿さんを理解していきたい。あんな顔してほしくはないんです!」
椿の身体が雅の方を向いた。
ソッと優しく頭を撫で、優しく囁く。
「本当に、雅は優しいな。その優しさを俺ではない奴にむけてやれ。所詮俺は籠の商品。いくら望んだって、優しくしたって意味はないんだぞ?」
「確かに遠い存在の人かもしれません!でも…一緒に居るときは、椿さんのことを…知りたいっ!共感して、悲しい気持ちや、苦しさを減らして…分かち合えると思うんです!だから…意味がないなんて言わないで…。」
私の本心だった。意味がないと言われ、悲しかった。
そう思っているのは、椿の本心なのだろうか。
布団の中で、向合いながら真っ直ぐ椿を見る。
富さんに言われただけなら、こんな気持ちにはならないだろう。