艶楼の籠
私の頭を撫でながら、目を細めた。
「本気に雅には、敵わないな。今日は、酒もたくさん飲んだんだ。眠ってもいいぞ。」
話しをそらされてしまった。
しかし、椿がこんな穏やかな顔をしているのは初めてだった。
触れたい。
「椿さん…。」
私の指先は、椿の髪に触れていた。
サラサラしていて、いい香りがする。
「…っ!……雅……ん。」
「んっ………っ。」
唇を塞がれてしまった。
とても優しい口づけだった。
「雅……そのままの雅でいろよ。…俺の言葉なんか信じるなよ。」
なんて弱々しい声だろう。
獅子のような獰猛さを微塵も感じられない。
―信じるな―
その言葉が真逆で、まるで、本当の俺を見てくれと言わんばかりに聞こえてしまう。
「私は、私です。何も偽らない。いつか…本当の椿さんを見てみたい…なんて、言っちゃダメですか…?」
「ははっ…いつか…な?」
乾いた笑いで、誤魔化されたが、穏やかな表情からは一変し、瞳は曇っていた。
彼にかけてあげられる言葉が見当たらない。
「…おやすみなさい。」
「おやすみ。」
彼の温もりを隣に感じながら、瞼を閉じるのであった。