艶楼の籠
白い布が芝生に落ち、ようやく人であることがわかった瞬間、その人の妖艶さに目を奪われてしまう。


「あ………。」


恐怖心ではない感情が私を支配していく。
心臓がトクトクと高鳴りだした。


「あー。見つかっちまった。」


その男が、言葉を話したことに驚いてしまい、再び身が硬直する。


「ひっ…!」


「!……クスクスっ…。なんつー声出してんだ?」


月明かりに照らされたその男は、艶やかな表情を私に向けた。


「だ、誰ですかっ!」


「しー…そんな大きな声を出すんじゃない。………それに……。」


生白い手は私の口元まで伸びてきて、華奢な指先が唇へ触れる。


「っ!!」


息を飲むほどの美しさに、心臓が凍りつくような感覚にさえなる。


「せっかくめかし込んだ姿が、台無しだぞ?…ほら、着物の裾を放しな。」


なんて、綺麗な艶っぽい声で話すんだろう。
冷たくなった私の指先にソッ触れる。


―ドクンっ!―


凍りついた心臓が溶かされていくような…私の心にスッと入ってくるこの人…不思議でたまらない。


「ここで、可愛らしい娘に会えるとは、思ってなかったからなぁ…。まぁ、ここで会えたのも何かの縁…少しばかり、あんたの時間俺に貰えないか?」


冠宴から逃げ出して来た私は、コクリと頷くしかなかった。
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