艶楼の籠

「それでは…行こうか!」

ニカッと笑う彼には、もう先ほどの艶めかしい表情はなく、少年のような瞳をしていて、目を奪われてしまう。

私の腰に自然と手を回し、身体が寄り添う。
男の身体から、お香のような甘い官能的な香がする。


―トクンっ―


「っ………。」


突然腰を触られた事に驚いてしまい、声が出なくなった。


「どーした?…もしかして、こうやって男に触られた事がないのか?」


私の心を見透かすように、そんなことを口にする。


「そ、それはっ!…………そうですけど…。」


言葉尻は、小さくなってしまう。


「くっく……そーか!…まぁ、恥じらってる姿も…可愛らしいな。」


どこに向かっているかもわからないのに、気分が高揚してくる。
河原沿いを歩いて行くと柳の木が生い茂っている場所に来た。


「これから、あんたが見たことも、感じたこともないような世界を魅せてやるよ。………………さぁ。少し走るぞっ!」


グイッと手を引かれ、一気に駆け出して行く。
私の身体が違う人のように思える程、脚が早く動く。


「あんた、足速いんだな!」


「はっ……はっ……!」


ある建物の前でその足はピタリと止まる。


「あ、あの………。」


息が上がってうまく話せない。
男は、私の腕をとったまま、暖簾をくぐり中へと入って行く。


「椿ぃぃぃーーーー!!!」


けたたましい声が部屋の奥から聞こえてくる。


「ひっ!」


あまりの声の迫力に、恐怖すら覚える。
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