艶楼の籠

バタバタと走ってきた人は、さっきあの様な恐ろしい声をあげていた人とは思えない程、可憐な女性だった。
真っ黒な髪と真っ白な肌は対照的で、何をも制止するような鋭い瞳。


「あんた!!!逃げ出したのかとっ!!!!!………あら。お客さんと一緒だったのかい。早く言って頂戴な。」


怒っていたのかと思うとすぐ、優しい言い方になる。表情も声質もコロコロ変えるこの人は、いったい……。


「あーあー。うるせぇ。うるせぇ。その甲高い声止めろよ。」


「なんだい?その口のきき方は…。そんで、そっちの可愛いお嬢ちゃんは?」


私を飛び越えて、隣の男に聞いているようだ。
明るい所でこの男を見ると、見とれてしまうような綺麗な肌。
私が見て解るほど、上等な着物を身にまとっている。
その着物に負けず劣らず、なんて美しい容姿なのだろう。
真っ直ぐな瞳と、堂々たる姿には、獰猛な獅子のような風格さえある。


「俺の客だよ。座敷まで、通してくれないか?」


「あんたが、自ら客を連れて来たことなんぞ今まで一度もないからね…。どういった風の吹き回しだい?明日は、雹が降るかもねぇ。」

小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、つらつらと、言葉が出てくるこの人は、私の事を不審に思っているに違いない…。


「あっ!あの!私は、東雲雅と申します!」


―シン―


2人は、呆気に取られた顔をしている。
空気は、静まり返っている。

……………気まずい。


「あっはは!元気のいいお嬢ちゃんだこと!……にしても…上等な着物だねぇ。」


鋭い瞳で品定めするかの様に、私をみる。


「こいつは、松の客だ。」


「椿がそう言うなら、そうなのかもね。……しかし、まぁ……垢抜けない…ここいらへんでは、見たことない顔だ。どこの箱入り娘だい?」

横目でチラリと私を見て言う。
何ともいい気分ではない。
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