艶楼の籠
「何とも騒がしいと思って降りてきてみりゃ……なんの騒ぎだい?」
上から聞こえてきたその声の先には、また艶やかな男が1人。
「櫻生っ!あんた、松のお客は?!」
「はっはー。また、帰られちまったのか!」
私の横には、血相を変える女と憎まれ口を叩く男。
階段の上に居る男は、なんとも怪訝そうな顔をしながらゆっくりと降りてきた。
私の側に寄るなり、結ってある髪をひと撫ですると、私の顔を覗き込む。
色素の薄い瞳と、しなやかな身体、無造作に束ねた長い髪は、なんとも言えない色気が漂っている。
「いいや。あの客と宴はあげられんと言ったら、怒って帰っちまった。俺は客を選んでるんだ。勘違いしないでおくれよ。……お嬢さん。俺の名は、櫻生(おうせい)。今宵は、俺と宴を楽しまないかい?」
そう甘く優しい声で言うと、私の目をジッと見つめてくる。
「なっ!なっ………! 」
恥ずかしさのあまり、口をパクパクさせてしまう。
「あっはっは!……なんだい?この新鮮な反応は!なぁ!椿!説明してくれよ!」
艶やかな表情から、笑うとパッと花が咲いたように明るくなる。
「櫻生…お前もうるせぇなぁ。櫻生に説明する事なんぞ、ねーよ!こいつは俺の客だ。」
「別にかまいやしないさ。誰の客だろうが、俺のもんにしちまえば……さ?」
美しい男2人に挟まれて、一度に見つめられると生きた心地がしない。
私の顔は赤くなり、しっとりと額に汗すら滲んでくる。
「客人が困っておられるだろう。」
低く、落ち着いた声がした瞬間、皆の視線がその人へ向かう。
スラリと背が高く、男らしい体つきとは対照に、優しそうな目元。
「お嬢さん。すまないね。驚かせてしまったようだ。可愛らしい人を前にすると…ついね。悪い癖だ。」
優しく微笑むこの男も、艶やかであるのに、品があり嫌味がない美しさだった。
「桔梗もこのお嬢ちゃんを気に入ったんだね?」
「…私の話ではないだろう…………更に困らせてどうするつもりだ。」
「例え、桔梗でもこいつは、やらないぞ!」
「……………………はぁ。」
呆れ、困り果てた顔をしている。
この艶やかな男達が集まるとスゴい威圧感だった。
―パンっパン!―
その場を制止するように、手を叩く人。
「お客さんの前で、恥を曝すのはやめなさい!なんだい、華の王が3人も揃って、喧しい!」
「鬼瓦が怒ってやがる。怖い怖い。」
「そんなに怒ると皺が増えるよ?」
「…………………………はぁ。」
美しく妖しい雰囲気であることは共通しているが、それぞれに、個性が溢れてでいる。