君のために歌う歌
宙子は、蚊と聞いたときから言おうか言うまいか悩んでいた言葉を発した。
「部室に、薬あるけど来る?」
口にしてみると、やはり言わなければ良かったと思った。
これではなんだか、二人きりになるのを、誘っているようだ。
(ふぁっきんびっち!!!)と脳内で叫ぶ郷愛をシッシッと追いやり、赤くなってるであろう顔で陽翔を見上げた。
「ほんと!?それは助かる……かゆくて気が狂いそうなくらいかゆい。」
陽翔は腕をかきながら、嬉しいのとかゆいので、眉間にシワをよせながら笑った。
「そんなに!?じゃあ早く行こう。」
宙子は、笑いながら言った。
陽翔はそんな表情でもかっこいいなと思いながら。
セミの声が、遠くで聴こえる吹奏楽部の合奏の音に混じって聞こえていた。