君のために歌う歌
陽翔は何も言わず、宙子と手をつないでいた。



宙子は、


(時間が止まればいいのに)


と本気で思った。





バンドが演奏を終え、観客に手を振りながらはけていった。




薄明るくなった場内で、陽翔は宙子の手を一度キュッと握ってから、もう片手を添えて、


「ごめんね、ちょっと行ってくるから、ドリンクの前で待っててね。」



小さい子に言うようにそう伝えると、手を離して、他の人のところに行ってしまった。



宙子は言われた通りにススス、とドリンクカウンターの前に移動する。



バーテンダーさんがいるから、ここなら安全と言うことだろう。


ちらりとバーテンダーさんを見るとちょうど目が合ってしまった。


目を離すのも失礼な気もして、思わず目を離せずにいると、バーテンダーさんは真顔でウインクをした。



宙子は恥ずかしくなって慌てて目をそらした。


視界の隅でバーテンダーさんは笑っていた。
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