君のために歌う歌
「おーお前ここにいたの?」


「高橋!!」



なんの気なしに高橋がやってきた。



見慣れた顔に宙子は安心した。



「陽翔に言われて来たけど、アイツも大変だよなあ。」



そう言って後ろを振り返った高橋の目線の先で、陽翔はおばさんと浴衣の若い子と話していた。


きっと親子で陽翔のファンなんだろう。



「ああやって、ファンのところに挨拶回ってるよ。優しいというかぬかりないというか。」


「うん……。」



宙子は不思議と、嫉妬心がわかなかった。


陽翔はファンを大事にしている。


けれど、見せている笑顔は、自分への笑顔とは違う気がした。


楽しそうに笑っている陽翔は嘘ではないだろう。

しかし、宙子にはもっと優しく微笑むのだ。


(頑張れ、ヒロ。)


そんなことすら思えた。


高橋は少し意外そうに、ジンジャーエールを飲みながら宙子を見下ろしていた。
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