君のために歌う歌
宙子は足が少し痛かったが、陽翔の方に小走りで近づいた。


郷愛と高橋は、なんだろうと思いながら立ち止まり、待った。




走ってくる陽翔と宙子が出会う。




相当急いだのか、陽翔はぜえぜえと息を切らせていた。


しかし、すーっと大きく深呼吸をして息を整えると、いつものように微笑んだ。


「ひろ。帰るの早い。」


「ご、ごめん。」


焦る宙子に陽翔はもう一度微笑むと、



その右手をとり、持っていた薄くて小さい何かを握らせた。


見るとそれは、ピックだった。


「今日は本当にありがとう。ひろが来てくれて、本当に嬉しかった。」


宙子は、面と向かってそんなことを言われるとくすぐったいようだった。


なにか言わなきゃと思ったが、



「こちらこそありがと。かっこよかったよ!」


当たり障りないような事しか言えない自分に腹が立った。



それでも陽翔は微笑んでくれた。




そして、宙子の両肩に手を乗せると、耳元に顔を寄せ



「浴衣のひろの方、めちゃくちゃ可愛い。」


そう囁いた。
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