ごめん、好きすぎて無理。
ただ幸せになりたい
あれから俺はすぐに紗奈の携帯に連絡を入れた。
紗奈の携帯には紗奈のお父さんが出て、俺は紗奈のお父さんに紗奈を無事に見つけたこと、病院に連れて帰ることを話した。
紗奈のお父さんは電話越しで、“ありがとう”と何度も言っていた。
電話を切り、二人でびしょ濡れのままの恰好で車に乗り込み、この時期にはまだ早い暖房をいれた。
お互いに何を話すでも、何を聞くでもない、静かな病院までの道のりだったけど、その静かさが全然苦に感じないほどに、俺たちは幸せに浸っていたのかもしれないー…
あっという間に到着した病院の入り口には、紗奈のお父さんと紗奈のお母さん、そして海が待っていた。
『紗奈!』
俺たちに気がついた紗奈のお母さんがそう叫び、紗奈のお父さんとお母さん、そして海がこちらに走り寄ってきた。
紗奈は繋いでいた手に力を込める、俺はそれを感じ、紗奈の手を強く握り返した。
俺達のところまで三人が駆けつけると、三人とも俺らの繋がれた手に視線を向けた。
『……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした』
俺が頭を下げると、
『………紗奈……』
そう言って、紗奈のお父さんが他の二人よりも一歩前に出た。
そして、手をあげた。
“紗奈が叩かれる”、一瞬でそう悟った。
紗奈のお父さんの手が振り落とされて…
……ベチン
その音では伝わらないほどの痛みが俺の頬に響くー…
『……陸!』
紗奈も叩かれる、それが分かっていたのだろう。
目を瞑っていたはずなのに、今は俺を心配そうな目で見つめている。
『………陸……なんで……?』
『…言っただろう?
傷や痣が出来るくらいなんでもないって』
俺はそう言って笑って見せるけど、紗奈は全然笑えてなくて。