ごめん、好きすぎて無理。
『紗奈、今のどういう意味?』
俺は訳が分からない、そういう顔で紗奈に問いかけた。
『……あの、もしかして海君とお付き合いとか、されてました?』
でも紗奈は俺の問いかけにスルーして、高木さんに問いかける。
『………え……?』
高木さんは紗奈の言葉に顔色が変わり、そして目を泳がせた。
『…紗奈、どういうこと?』
高木さんのその様子に、紗奈の問いかけに俺の疑問は増えていくばかりで。
俺はスルー覚悟でもう一度、紗奈に問いかけた。
『………海君と付き合い始めた頃にね?
私、海君と居酒屋に飲みに行ったことがあるの。
付き合い始め、少し緊張もあってか、お互いに飲むペースが早くてね…。
酔うのが早くて、恥ずかしながら居酒屋さんで二人して寝ちゃってて…。
店員さんに声をかけられて、まだ向かいに座っていた海君は寝ていて、だから私が海君を起こそうとした時、海君、半寝ぼけた顔で、私のことを“沙羅”って言ったの。
付き合い始めだったし、海君から付き合おうって言ってくれたのに、どうして私を見て、“沙羅”って言ったんだろうって…衝撃的で少し悲しかったから…あの時の海君の言葉、今も忘れてない』
紗奈は遠い記憶を掘り起こし、そう俺に話してくれた。
『その時、海君の中に、“沙羅さん”っていう人がいるんだ、そう思ったんだ…』
海の中に……高木さんの存在があった…?
『その沙羅さんって、高木さんのことじゃないですか?』
紗奈に振られて、高木さんは俯く。
『……さっきもお互いに知り合いみたいな感じだったし』
その言葉に、高木さんは顔を上げて、そして少し困ったように、でも微笑む。