ごめん、好きすぎて無理。






『……彼があなたのお腹の子の父親?』



『…はい、彼がこの子の父親です』






『……そっか、でもさっき海と付き合ってたような話もしてたけど…』



『海と付き合ってました、さっきの彼ともう一度会うために…』





俺は紗奈と高木さんの会話は聞こえても、二人がどんな風に話しているかは見えなくて、少しだけ病室を覗くように顔だけ移動し、そっと中を覗いた。




紗奈のベッドの横に、丸椅子に腰掛け、二人は向き合った形で話をしていた。







『……え…?』



高木さんは俺からの位置では背後しか見えなかったけど、高木さんのその声に、紗奈の顔が少しだけ曇ったように見えた。



でも、紗奈は口を開く。







『彼と海、二人は双子の兄弟なんです。
 初めに会ったのは彼の方で、私は彼のことが好きだったんです。

 でも…色々な事情があって彼とは別れてしまって…だけどどうしても彼を諦められなかったんです。

 彼と別れる時、“またいつか二人が出会うことがあったら、その時はまた私を好きにさせてみせる”、そう彼に言ったんです…。

 でも実際は難しくて、なかなか彼と会う機会もなくて…だけどどうしても彼に会いたかった、彼の好きという想いを聞きたかった…例えそれを叶えるために誰を傷つけても…。

 海君は私が彼と出会うために、踏み台にしたんです……』






それが、海を傷つける。


そう思っても、そう分かってても、それでもこの想いだけは叶えたかった。




やり方は今でも間違ってる、俺もそう思う。



でも、そんな紗奈の心の想いが伝わってくるー…







『………最低、ですよね……』






『……うん、最低だね…。
 でも、そこまで想える相手に出会えたんだね、紗奈ちゃんは。

 私も沢山想って、泣くくらい想った……でも紗奈ちゃんみたいには出来なかった。

 だから、紗奈ちゃんのその行動力、私は羨ましいな……』







< 123 / 159 >

この作品をシェア

pagetop