ごめん、好きすぎて無理。
『……彼があなたのお腹の子の父親?』
『…はい、彼がこの子の父親です』
『……そっか、でもさっき海と付き合ってたような話もしてたけど…』
『海と付き合ってました、さっきの彼ともう一度会うために…』
俺は紗奈と高木さんの会話は聞こえても、二人がどんな風に話しているかは見えなくて、少しだけ病室を覗くように顔だけ移動し、そっと中を覗いた。
紗奈のベッドの横に、丸椅子に腰掛け、二人は向き合った形で話をしていた。
『……え…?』
高木さんは俺からの位置では背後しか見えなかったけど、高木さんのその声に、紗奈の顔が少しだけ曇ったように見えた。
でも、紗奈は口を開く。
『彼と海、二人は双子の兄弟なんです。
初めに会ったのは彼の方で、私は彼のことが好きだったんです。
でも…色々な事情があって彼とは別れてしまって…だけどどうしても彼を諦められなかったんです。
彼と別れる時、“またいつか二人が出会うことがあったら、その時はまた私を好きにさせてみせる”、そう彼に言ったんです…。
でも実際は難しくて、なかなか彼と会う機会もなくて…だけどどうしても彼に会いたかった、彼の好きという想いを聞きたかった…例えそれを叶えるために誰を傷つけても…。
海君は私が彼と出会うために、踏み台にしたんです……』
それが、海を傷つける。
そう思っても、そう分かってても、それでもこの想いだけは叶えたかった。
やり方は今でも間違ってる、俺もそう思う。
でも、そんな紗奈の心の想いが伝わってくるー…
『………最低、ですよね……』
『……うん、最低だね…。
でも、そこまで想える相手に出会えたんだね、紗奈ちゃんは。
私も沢山想って、泣くくらい想った……でも紗奈ちゃんみたいには出来なかった。
だから、紗奈ちゃんのその行動力、私は羨ましいな……』