ごめん、好きすぎて無理。



次の日。



俺は紗奈の入院している病院に向かった。




ちょうど夜勤と日勤の看護師同士で引き継ぎが終わったところだったみたいで、高木さんがナースステーションから出てきたところに遭遇した。






『あら、おはよ、えっと…陸君』


高木さんは昨日の怯えなんて何もなかったかのように、微笑んでそう言った。







『あ、おはようございます…』



ちょっと心配な気持ちもあったけど、高木さんは何もなかったようにしているから、思い出させるのも悪いかなと思って、俺は何も聞かなかった。







でも、そのナースステーションの方が騒がしくなった。




『ちょっと、この科に高木沙羅っている?』


中年の女性の看護師がそう叫んでいる。






『…私?なんだろう…?』




高木さんはそう言って、ナースステーションに戻っていく。




俺も中には入れないにしても、ナースステーションの扉に耳を当てて、中の様子を窺った。








『あの…私が高木沙羅ですけど……』




『あなた高木沙羅?
 ちょっとあなたに会いたいっていう患者がいるんだけど!

 病室で大暴れしちゃってて大変なの…!
 ちょっとあなた来てくれない?』



高木さんの言葉に間髪いれずに、その看護師がそう叫んだ。








『あなたじゃないとダメだっていうのよ!』



高木さんはそう言われて、そしてその人に腕を掴まれたのだろう。



ナースステーションから出てくる時はその人に引かれるように出てきた。







『………あの、私に会いたいっていう患者さんって……』




『昨日搬送された患者よ!
 高瀬恭二っていうんだけど!』





『……高瀬…恭二………』






“高瀬”



その名字が思い浮かび、そして俺は身震いをする。







まさか……高瀬って………。




昨日、高木さんが怯えていた、あの高瀬、なのか……?








俺は高木さんの顔を見つめる。



そこには怯えた顔をしている高木さんが映って、俺は携帯を取り出し、すぐに海に連絡を入れた。








< 135 / 159 >

この作品をシェア

pagetop