ごめん、好きすぎて無理。





『はい、パパ、奥さんの腰をさすって!
 奥さんも赤ちゃんも頑張ってるよ!
 赤ちゃんに“こっちだよー”って呼んであげて!』




助産師さんにそう言われ、俺は紗奈の腰をさすりながら、



『こっちだよー』


と、声をかける。




その間にも紗奈の苦しそうな声が分娩室に響いて、俺は目をつぶりたくなるのを、耳を塞ぎたくなるのを必死で堪えた。







それから、そんな時間がどの位、続いただろう…







『ほら、頭出たよ!
 あともう少しだよ、ママ、頑張れ!』





その言葉に紗奈が全部の力を出して、イキんだ時ー…









『おんぎゃーおんぎゃー』




そう、激しく泣く、その声が聞こえたー…









『ママ、頑張ったね!
 ほーら、見て?
 
 可愛い女の子だよ』






産まれたばかりのその子を優しく抱いて、助産師さんが紗奈にその顔を見せた。




俺も紗奈の横に移り、そのくしゃくしゃな顔を見た。









『元気だね、この子は。

 ママ、よく頑張ったね!』



そう言われている時まで、赤ちゃんは泣き続けた。








分娩室の外からは、赤ちゃんの泣き声を聞いてか、“産まれたー!”という叫び声がする。







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