ごめん、好きすぎて無理。
海の顔を見て、俺は一瞬で全身の血の気が引いていくのを感じた。
『ん?
陸、顔色悪いけど、どうした?』
その海の言葉に、今の会話を聞かれていない…
そう思った、いや、そう思いたかったのかもしれない。
『なんでもない。
お前の彼女、めっちゃいい子だな。
さっきから俺の分までやってくれてるよ』
俺の言葉に、海はクスッと笑った。
『陸、当たり前じゃん!
俺が選んだ女なんだから』
海はそう言って、キッチンの中に入り、さも当たり前のように紗奈の隣に立った。
そして、紗奈の腰に手を回し、にこやかに紗奈に笑いかけた。
『海君、今日はお兄さんと私が仲良くなれるように、そういう飲み会なんでしょう?
だったらこんなことしてたら、お兄さんに逆に気を遣わせちゃうじゃない』
紗奈はそう言って、海の手を優しくどかした。
『いいじゃん、もう結婚する仲なんだし』
そして、海は紗奈の頬に唇を当てた。
『海君!』
慌てて紗奈はそう言い、海の事を見つめる。
そんな一連の流れが、本当に海と紗奈が恋人同士である、そう言われているようだった。
『だって、紗奈を兄貴に取られたら、俺、嫌だもん♪』
冗談、それは分かってる。
でも、海がそう言えばそう言うほど、海が笑えば笑うほど、海は何か知ってるんじゃないか、そんな不安と疑問が胸に押し寄せてくる。