ごめん、好きすぎて無理。
『それなら、陸だってそうじゃない。
演じてばかりの私に、“俺に話せば”、そう言ってくれたじゃない…』
あの時は、みんなの期待に応える、そんなお前の本音をぶつける相手になりたかっただけで。
一人でもそういう奴がいれば、そいつの前だけでも吐ければスッキリするかな…そう思っただけで。
『…なら、俺はそんなこと言わなければ良かった……』
俺の言葉に紗奈は泣きそうな顔に変わっていく。
でも俺はそんな紗奈に背を向け、再び歩き出す。
『なんで……陸はいつも私から離れていくの…?』
俺の背中に届く、紗奈の小さな声…
『紗奈のこと、好きじゃないから、俺』
ここまで言えば、紗奈は俺を諦めるだろう。
ここまで言ったんだ、俺より海の方がいい人だと、自分を幸せにしてくれる相手だと、そう思うだろう。
紗奈、俺はあの頃、確かにお前のことが一番だった。
でも、今は違うー…
紗奈は“海の彼女”なんだ。
『……………ムカつく』
聞き間違え、だと思った。
でも怨みでもこもってるような、そんな言葉の後、紗奈は背後から俺に抱きついてきた。