ごめん、好きすぎて無理。
『あのさ、一つ聞いていい?』
俺は静かに、紗奈に問いかける。
『何?』
紗奈の言葉を聞き、俺は一度地面に視線をやり、そしてもう一度紗奈の顔を見つめ、口を開く。
『なんで海じゃなくて俺なの?』
『……え…?』
『海はさ、すっげーお前のこと大事にしてるし、大切に想ってる。
そんなの俺から言われなくても、傍にいて分かってんだろう?
なのに、なんで俺なの?』
紗奈は俺から視線を外し、俺より少し外れた右側に視線を向けた。
『陸は私の居場所になってくれた人だから。
陸は私に“恋”を教えてくれた人だから。
私が本気で好きになって、絶対に失いたくない…そう思った人だから。
だから…どうしても陸のこと、諦められない…』
もしさ。
もし、紗奈は海の彼女じゃなかったら、いや紗奈が誰のものでもなかったら。
そしたら、嫌いで別れた訳じゃない元カノにこう言われたら。
嫌いで別れた訳じゃない、ただ紗奈のこと、好きすぎて。
だから下した決断だった、あの別れは。
だからー…
『…ごめん、変なこと聞いて。
けど、紗奈の想いを聞けて良かった』
『…え…?』
『紗奈が本気なら、俺は紗奈のその想いを潰す。
紗奈の俺への想い、消させてやるよ』
でも、紗奈は海の彼女。
俺があの日、紗奈の手を離した、その事実は変わらない。
『………なんで?』
『俺は紗奈のことが嫌い、なんだ。
あの頃も、今も。
弟を傷つけるような女、弟を傷つけても平気な顔が出来る女、俺は人として認めない。
だから、紗奈のこと、嫌いなんだ、あの頃以上に今は!』
俺の言葉に紗奈は泣く、そう思った。
でも、紗奈は笑ったー…
『陸、最低だって…
ずっと私のことを罵っててよ?
陸が私をそう思ってくれてる間は、陸の心の中に私という存在がいるってことだもんね?
だから、最低な女って罵ってくれてて構わない。
その代わり、陸の心に永遠に私の存在を刻みつけてよ?
今日は、これからのデートは陸の心に私を刻みつける、最初の傷、だよ…?』