ごめん、好きすぎて無理。
いやいや、海君?
彼女だし、キスとか、してくれていいんだけど。
場所は考えてほしいよ、兄貴は…と、心の中でツッコミを入れる。
しばらくして海と海の彼女はまるで何事もなかったように平然とした顔で玄関にやってきた。
『あ、陸ー!
今からコンビニ行くんなら、紗奈のこと駅まで送ってよ?』
海は至って普通の顔をして、そう俺に任務を与えるけども、俺は乗り気じゃない。
むしろ、そんなことは願い下げ。
『いや、海が』
『お願いしまーす』
海の彼女は俺の言葉を遮り、パンプスを履きながら、満面の笑みを俺に見せる。
この人は天然なんですか、それとも確信犯ですか。
俺は自分の心に再び問いかけるも、海の彼女はくるっと体を反転させて、海の方に視線を向ける。
『海君、またね』
海の彼女はそう言って、何回か手を振ると、俺の家の玄関のドアを開け、そして先に外に出ていく。
『陸、よろしくー』
海にそう言われ、俺は渋々と彼女に続いて、外に出た。
この展開を渋々承諾してしまったのは、海に頼まれたから、俺は何度も自分にそう言い聞かした。
外に出たのはいいものの、二人の間に会話なんてものはない。
ここに海でもいれば、きっと話題があったのだろうけど…
それにしても気まずい…
この状況下で話題を提供できる奴はいるのだろうか…
『久しぶりだね、陸』
そんな中、俺達の沈黙を破ったのは、彼女だった。
『……あぁ……』
俺は突然の言葉がけに驚いたことも手伝って、歯切れの悪い返事を返す。