ごめん、好きすぎて無理。
降り立った駅には程良く家族連れや恋人がいて、俺らは離れまいと自然に手を繋いだ。
あの頃は、俺から紗奈の手を取ること、紗奈から俺の手を取ること、当たり前でなんとも思わなかった。
でも、今は違うー…
まるで付き合いたての二人、かのようにドキドキする。
繋いだ手からそのドキドキが紗奈に伝わらないこと、俺はそれだけ必死に願った。
『陸、手を繋ぐの、こんなに緊張するんだね。
私、陸とこんな風に手を繋げること、すっごい嬉しい』
でも、紗奈はそう言ったー…
『陸、あの頃は陸が傍にいること当たり前で、不安になることもあったけど、それでも陸とは一生一緒にいる、そう思ってた。
だからそれを一度失った、でもまたこうしてこんな風に居られて、私、本当に幸せだよ?』
紗奈はいつも俺を困らせる。
俺が紗奈の言うことを否定したり、海に言えよ、と言うこと分かってくるくせに…
紗奈は本当に俺なんかのことを想ってくれてる、それが伝わってくる、それが嬉しい。
でも、それが苦しい、俺を苦しくさせるー…
『紗奈…なんでお前はそんなこと、言うんだよ?』
俺の問いかけに、紗奈は俺に視線を合わせて、そして優しい声で答えた。
『陸が好き、だからだよ。
陸が好きだから、陸を感じる今、嬉しいこと、幸せなこと、全部陸に伝えたいの』
そんなこと、俺に言うな。
そんなこと、そんな顔をして俺に言うな。
『紗奈、お前、本当にバカな女だな…。
俺の事なんて最低な男だって憎んでればいいのに…』
『私は陸を愛して、陸と一緒に居られて、陸に愛してもらったこと、全部後悔してない。
あんなことがあって、傍を離れた陸のことを恨まない、そんなことはなかったけど、それでも陸と過ごした時間は私にとって最高の時間だったから…陸を憎めない、憎みきれない…』
本当にバカな女…
でも、それでも紗奈の言葉に自然と涙が出そうになるのは何故だろうか。
この涙はなんの意味があって流れようとしているというのか。