ごめん、好きすぎて無理。
A棟まで来ると、そこは今までいたB棟とは全然違う雰囲気だった。
さすが小児科があるからだろうか、壁一面に子どもが喜びそうなキャラクターが貼られていたりする。
『……そんで、A棟に来たけど、ここからどうすれば……』
ふと前方から、一人の中年の男性が歩いてくるのが目に入る。
『……あ、あの!』
少し離れていたからきちんと顔が見えなくて声をかけてしまったものの、段々と近づいてくるにつれて、その中年男性の顔がハッキリ見えてきてー…
『………え……』
『…………君は………』
相手の中年男性も俺に気がついたんだろう。
そして俺も、その中年男性が誰なのか、ハッキリと分かった。
『……どうして君がここにいるんだ……』
その男性こそ、俺が会うのが怖かった相手、紗奈のお父さんだったー…
『…………あ……えっと、あの……』
なんて答えればいいか、俺も迷う。
『………君は、娘のことなど、いや娘との間に起きたことなど忘れて、結婚でもしたか?』
迷う俺に、紗奈のお父さんは怒りに満ちた表情で、そう問いかけてきた。
『…結婚はしてないです。
紗奈さんとのことも忘れたりなんかしてません……』