ごめん、好きすぎて無理。
『……後悔なんて……君はただ娘に罪悪感があるから、そう言ってるだけじゃないか……』
紗奈のお父さんの強い瞳、その強い瞳が大きく揺れたような気がして、俺はその瞳から視線を外すことが出来なかった。
『……罪悪感はあります。
俺が幸せにしたかった……でもその紗奈を離してしまったこと……悔いても悔いてもどうしようもないほどに後悔してます。
でも!だから』
『もう止めてくれよ!』
俺の言葉を遮り、海がそう叫んだ。
俺と紗奈のお父さんの視線が海の方に向くー…
髪の毛の先まで怒りに震えているような、殺気さえも感じてしまうほどの鬼気迫るものを海から感じて、俺は一瞬怯みそうになった。
こんな海、見たことがないー…
『……陸を好き?
俺を通して陸を見てた?
俺が幸せにしたかった?
……なんだよ、それ…。
なんなんだよ……なんで俺の大切な奴らがしっかり想い合ってんだよ!』
海の視線が俺に降り注ぐ。
俺は今、どんな目で海を見つめ返しているだろう…
しっかり海の目を見つめられてるのか?
『ふざけんなよ!
じゃ……俺は誰を憎めばいいんだよ!?
兄貴か?それとも紗奈か?
誰に今の裏切られてた事実を知ってのこの想いをぶつけろって言うんだよ!?』
『……ふざけんなよ……。
俺はただ紗奈を好きだった……兄貴に祝福してほしかった……。
それだけなのに、なんでその紗奈と兄貴にそういう過去があんだよ!
なんで紗奈は兄貴なんだよ……なんで兄貴も紗奈なんだよ……!』
『紗奈も兄貴も…俺にどうしろって言うんだよ!』
言いきった海は肩で息をするほどで。
俺はただ、海の顔を見つめ、“ごめん”としか言えなかった。
そんな俺に、
『謝るんなら、最初から紗奈を奪うなよ……。
紗奈を返せよ!』
海はそれだけ叫んで、そのまま病室を飛び出していった。