大人の恋はナチュラルがいい。
2・枯れた女のデートの場合

【2・枯れた女のデートの場合】



 坂巻太一くんは26歳だった。ちょっとだけ外れたけど、まあ概ね私の読みは当たっていた。そして、彼は【Apaiser】から歩いて8分の行政書士事務所に勤務しているらしい。大学の法学部を卒業後、補助者として働いていたけど昨年の試験で無事合格し、今では金のコスモスを胸に着けている。あんな朗らかな子が随分お堅い仕事をしてるもんだと思ったけれど、彼曰く『行政書士も対人の営業職なんですよ』らしい。

 と、まあ、そんな情報のやりとりをラインとメールと電話で数回交わした後、我々は次の週末にいよいよデートをする事になった。奇しくも季節は春、麗らかな気候の中、海浜公園でボートに乗ったり観覧車に乗ったりアウトドアなデートを楽しんだあと、太一くんオススメのレストランに連れてってくれるとか。なんとも健全で爽やかな彼らしいプランだ。

 以前より彼の情報を収集出来た事で安心感も湧き、どこか身近に感じられた気もする。すっかり“恋”などと色めき立ったモノから遠ざかっていた私だけど、幾度も言葉や文字を重ねるうちにデートの約束に胸が弾んできた。そんな自分に『なんだ、私もまだまだ捨てたもんじゃないな』などと満足げに独りごちていたけれど、5年と云うブランクが如何に大きいかを痛感するのは、よりによってデート前日の夜である。


「着る服がない!というか何着ていけばいいか分からない!!」

 待ち合わせまであと16時間に迫った夜の9時。独り暮らしする1DKの部屋で、私は青い顔をしながらクローゼットを引っ掻き回していた。カフェの知識と引き換えに女としての常識を捨て去った私は忘れていたのだ。デートの準備と云うのは最低でも1週間前から行わなくてはいけないと云う事を。

 何処に行くかが決まればTPOを考えた服を考え、それに併せた髪や小物まで考えておくのが女子と云うもの。お肌の手入れに無駄毛の手入れも然り。ディナーの内容によっては、『太っちゃうからこんなハイカロリーなもの食べられな~い』なんて状況に陥らないために数日前からカロリー調整をし、当日は彼に『いっぱい食べる君が好き』と言わせるのがイイ女ってものだ。
 
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