大人の恋はナチュラルがいい。
太一くんの仕事のことを聞いたり、好きな食べ物を聞いたり、休みの日には何をしてるとか、どんな音楽を聴くとか、そんな無難だけど大切な情報のやりとりをしながら歩いていると。「ヒヨコさん、あれ乗ろう」いつのまにやら着いていたボート乗り場で、太一くんがサイクルボートを指差して言った。
もちろん快く頷き、ふたり揃って貸し出し受付まで行く。何パターンかあるボートの種類に「どれにしようか」と尋ねられて、ごく自然に白鳥型ボートを指差してしまった自分の色気の無さに嫌気が差すものの、彼は寛容な心を以て「俺もそれがいいと思ってた」と笑ってくれた。優しすぎる。ナイスイケメン。
パンツスタイルをコーディネイトしてくれたマリナに心の奥で感謝しながら、ふたりで白鳥ボートのペダルを漕ぐ。想像してたよりダイレクトに伝わる水の重さに、ペダルを漕ぐ足に力を籠めていると。
「ヒヨコさん、足離して。俺に任せて」
頼もしい宣言をして太一くんは若々しい力を漲らせながらペダルを漕ぎ出した。後部から水しぶきが上がる音がして、白鳥は水面を割りぐんぐん進んでいく。
「わ、わ、早い!」
「ヒヨコさん、ハンドルハンドル!ほら、ぶつかっちゃうよ!」
「ええっ!?、わ、分かった!」
急に操縦を任されて焦ったものの、何とか私はハンドルをさばき岸への激突を回避した。ホッと息を吐き出すと隣で太一くんが肩を揺らして笑っている。それが悪戯っ子特有の笑みだと気付いて、私はしてやられた事に気付いた。
「あはは、ヒヨコさんすごい焦ってた」
「だって本当にぶつかるかと思って……ああもう!寿命縮んだ!」
「ゴメン、ゴメン」