大人の恋はナチュラルがいい。
爽やかなだけじゃない、若人らしい彼のおどけた一面を知って私の胸がまたしても勝手にキュンと疼く。なんか私アレだな、なんというか、そのー……坂巻太一くんのこと、結構好きかも知れない。そんな事をふと意識してしまった途端、隣の柔らかな瞳とバッチリ視線が合ってしまったりするもんだから、カァッと頬が熱を帯びてゆく。
「どうかした?」
「え、えっと、あはは、なんでもない。ね、それより次はあれ乗りに行こう」
ひとりで赤面して馬鹿みたいなのを誤魔化すため、あわてて遠景に見えた観覧車を指差した。あからさまに不自然な誤魔化しだったかも知れないが、そこは寛容な太一くん。「いいね、行こう」と屈託無く笑って頷いてくれた。
考えてみたら観覧車に乗るなんて体験は遥か昔、子供の頃以来ではなかろうか。生憎、今まで付き合ってきた殿方はどちらかというと大人びたデートがお好きだったので、こういう遊具に男性とふたりで乗るという事は無かった気がする。だから私は止まらず動いている状態の観覧車に乗り込むという不安定な乗車方法にも面食らったし、何より大人ふたりが乗るには物凄く狭い個室だと云う事に内心『マジで!?』と叫びを上げていた。
ふたり並んで座ったら絶対密着せざるを得ない小さすぎる座席。幸い向き合ってひとつずつあるので、私は太一くんが先に乗ったのをいい事に対面の座席へと腰を降ろした。それを見た彼の表情がちょっとだけキョトンとする。
いや、別に隣に座っても良かったんですけどね。でもなんか、いきなりそれもどうかなぁって、まだ真昼間だし。いやいや、別に夜なら密着してもいいって訳じゃないんだけど。いやいやいや、なんかそれやらしいし。
彼がジッと向けてくる視線を感じながら窓の外に目を逸らし、頭の中で一生懸命弁解を図る。ゆっくりと観覧車が登っていくと同時に遠くなっていく地上の景色。代わりにどんどん広がっていくのは晴天の青ばかりだ。
「わあ、けっこう高いねえ」
陽に眩しく煌く水面と吸い込まれそうな青い空を交互に見ながら感想を零せば、
「ねえヒヨコさん」
おどけた色の無い声色が私を呼んだ。