大人の恋はナチュラルがいい。
「な、何かね?」
妙な緊張感を感じ動転してしまったせいで社長のような口調になったが雰囲気は和らがない。どうしていいか分からない視線を景色と正面の席の間で曖昧に彷徨わせていると、太一くんが少しだけこちらへ身を乗り出してきた。
「俺、ヒヨコさんのこと好きです。だから、ちゃんと彼女だって思っていいですか?」
どストレート。直球勝負、しかも改まって敬語まで駆使された誠意丸出しの告白は心臓を鷲づかみしすぎて一瞬眩暈がした。デートに誘われたり憧れてたとは聞いたものの、改めて好きだとハッキリ言われると、これまた逃げ場の無い感情が湧き上がってくる。
女の本能ってやつは凄い、あなどってはいけないな。5年ぶりだというのに、男性に惚れられているのだと実感した途端、自分の中の“女”が次々と目覚めていくのを感じた。久々の恋、しかも相手が年下と云う事に不安が無いといえば嘘になるけれど、でもそれ以上に心が彼との恋を欲している。
今ここで私が頷いたら次にどんな展開が訪れるかは分かっている。そして、分かっていて私は頷くのだ。
無言で小さく首を縦に動かすと、ふんわりとセットしたサイドの髪がサラリと視界を隠す。指先で髪束を掬い耳に掛ければ、開けた視界に席を立ってこちらに向かう太一くんの姿が見えた。
「……やった」
吐息のように呟いた声には溢れんばかりの感情が押し込められてる事が窺えた。ここが狭い空間だからはしゃぐのを抑えてるのかもしれないし、はたまた彼なりに色々思う所があるのかも知れない。私の隣に移動してきた太一くんは遠慮することなく身体を密着させて小さな席に座り込む。そして膝の上に置いていた私の手をぎゅっと握りこんで「彼女だから」と照れくさそうな笑いを向けるのだった。
観覧車がとてもゆっくり動く事を知ったのは子供のとき以来だけど、きっとこのもどかしい程の速度には意味があるのだと気付いたのは、今日が初めてかもしれない。