大人の恋はナチュラルがいい。
「あれ?なんか今日のピヨちゃんオシャレじゃない?美人じゃない?このメイク、プロ感ハンパないんだけど」
私の姿を上から下までマジマジと観察すると、薫くんは遠慮なしに手を伸ばしてきてエアリーにセットした髪をフワフワと撫でてきた。武骨かつ長い指が頬の横の毛束をなぞるように撫でる。
本来ならいくら枯れている私とてこんな安易に男に髪など触れさせないのだけど、薫くんにだけは抵抗感が湧かない。なぜって、彼は正真正銘ガチホモのゲイだから。この一見セクシーに見える指先には蟻ほども下心はなく、純粋にメイクやヘアが気になるオシャレ心だと分かっているので、警戒する必要も無いのだ。
「やだ、今日のピヨちゃん毛穴がない。これどこの誰にメイクしてもらったの?紹介してよ」
美意識の高い薫くんは、プロにメイクを施された私の肌に興味深々だ。ついには両手で頬を掴んで視線が刺さるほど顔を覗きこんでる。あまりの剣幕に「ちょっとやめてよ~」と苦笑いを零した時だった。薫くんのドアップの顔越しに見えた光景が私の背筋を凍らせる。
「た……太一くん……」
店内で購入してきたアイスオレをふたつ手に持ったままこちらを見て固まっている太一くんの姿が私の網膜に焼きついた。その表情にはありありと“ショック”という文字が浮かんでいる。
い……一体いつから見ていたのだろう。中身はともかく外見はイケメンなスーツ紳士に頭を撫でられ、髪を撫でられ、頬を掴まれ顔を覗き込まれ、それらの全てが客観的に見れば十二分に誤解を与えるものだと、私はこわばった太一くんの顔を見て気が付いた。