大人の恋はナチュラルがいい。
「あの、違うの!この人は……」
正真正銘ガチホモだから!と私が叫ぶ前に、青いシャツは再び翻されこちらに背を向けた。その後姿がこの状況を、私の言葉を拒絶しているように見える。
「太一くん!」
薫くんの大きな身体を押し退けて叫ぶも若者の機敏な動きには追いつかず、太一くんはすでに遊歩道を駆け出して行っていた。遠ざかっていくシルエットに私の胸が冷たい不安で覆いつくされていく。
「え?あれれ?もしかしてデート中だった?さっきのピヨちゃんの彼氏?」
情けないほど動揺してる私と遊歩道を駆けて行く太一くんを交互に見ながら、薫くんはやっとコトの次第に気付いた。そして接近していた身体を一歩後ろに引くと愕然としている私の顔を見て勢い良く頭を下げる。
「ごめーん!なんか僕、彼氏さんにすっごい誤解させちゃったみたいだね。ほんとゴメン。あの、追いかけていって弁解してこようか?」
責任感を感じオロオロとうろたえる薫くんだったけど、私は光彩を失った瞳のままうつろに首を横に振る。今、薫くんが追いかけたところで太一くんが『そうですかあなたはホモでしたか』と素直に話を聞いてくれるとは到底思えない。悪化する状況しか見えてこない。
それに、悪いのは私だ。彼氏というポジションの男性が側に居ながら何を無神経な事をしていたんだろうと自分に腹が立つ。枯れていた5年間でそんな当たり前の気遣いすら忘れていたなんて、ふがいないにも程がある。
「いいよ、薫くんのせいじゃない。私が悪いの。あとで謝りに行く。だから気にしないで」
「本当にごめんね~。もし誤解解けないようだったら僕からもちゃんと謝りにいくから」
眉を八の字に顰め心苦しそうな態度をとる薫くんに、私は気遣いだけで表情筋を動かし力なく微笑む。けれど。
「でも、ピヨちゃんの彼氏くん可愛かったね~。もし振られちゃったら僕紹介してもらっていいかな?」
冗談か本気か分からないガチホモフレンドの言葉に、私は手に持っていたショルダーバッグで後頭部をぶん殴っておいた。