大人の恋はナチュラルがいい。
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翌日。理緒ちゃんの「デートどうだったんですか?」という質問をぎこちなく交わしながら、私はいつもと変わらぬ店長としての業務に従事した。
昼になりいつものように店頭でランチボックスを並べるが、今日は売り子担当のアルバイトが来てくれてるので私は店内の方を担当する。徐々に混み出し忙しなくランチやコーヒーのオーダーに追われながらも、目線は何度も窓から見えるランチボックスの売り場に向いてしまった。当然、太一くんが来てくれる事を期待しながら。
13時を20分ほど過ぎ、ランチボックスを完売させた理緒ちゃんとアルバイトの子が店内に戻ってくる。結局、私の目に太一くんは捉えられなかったので彼の来訪を確認することは出来なかった。出来なかったけれど、来なかったと予想をつける事は簡単だった。もし来ていれば理緒ちゃんが黙ってはいないだろう。からかいのひとつやふたつ私に投げ掛けてくるはずだ。ひそかに落胆した気持ちを誰にも気付かれないよう、私は過剰なほど“いつも通り”を演じながら午後の業務に当たった。
お店に来てくれるかも知れない、電話が来るかもしれない、メールが、ラインが来てるかも……そんな事ばかりを頭に過らせながら虚しく今日の営業が終わった。PM7時、終業後の一服に立ち寄るお客さんの足も途絶え、お店のドアにCloseの札を掛ける。ロールカーテンを降ろし明日の仕込をしてると、清掃を終えた理緒ちゃんがいつものように「お疲れ様でーす」と一足先に帰った。
ひとりになった店内で今日の売り上げの計算をしようとカウンター席に腰を降ろした途端、盛大な溜息が漏れる。来客が太一くんかと期待する度に、なんの通知も来ていないスマホを見る度に、積もって行った落胆がひとりになった事で遠慮なく零れたのだ。
自分用に淹れたキリマンジャロの馥郁とした湯気が嘆きの溜息で揺れる。太一くんとの現状打破にもはや解決の糸口が見出せない私は、頬杖をついたままぼんやりと哀しみに気持ちを浸らせた。会計ソフトを立ち上げたまま触れられないノートパソコンが静かな店内にファンの音を小さく響かせて、虚しさを増徴するBGMみたいに感じる。
無機質なBGMに合わせる様に思考を虚しさにたゆたわせている時だった。コンコンと小さな音が呆けていた私の耳に入り、目覚めるようにハッと我に返る。