大人の恋はナチュラルがいい。
どこか丁寧さを窺わせる“コンコン”は、店の窓をノックしている音だとすぐに分かって、私は転げるようにスツールから飛び降りると小走りで窓へと向かった。2回目のコンコンが聞こえて、それに応えるように慌ててロールカーテンを上げる。
「太一くん……!」
開けた視界には、夜の街をバックに窓前にたたずむ太一くんの姿が。引きしめた真剣そうな口元とは裏腹に、不安をいっぱい抱えた子犬みたいな眼差しで、窓越しに対面した私を見ている。
にべもなく鍵を解きドアを開くと、わずかに躊躇いを見せながらも太一くんは素直に店内に入ってきた。やっと仲直りのチャンスが来たと云う安堵はあったけれど、落胆の最中の来訪だったので、どう言葉を紡ぎ出そうかしばし頭を悩ませる。けれど、そんな私より先に口を開いたのは太一くんの方だった。
「昨日はごめん。本当にごめんなさい」
100パーセント自分にしか非が無いと思っていたのに、突然深々と頭を下げられてしまい困惑する。同時に折り目正しい45度の最敬礼に、なんて綺麗な謝罪のお辞儀だと妙な感心を抱いてしまった。そんな狼狽えてばかりの私はさておき、彼は45度の姿勢のまま言葉を続ける。
「ふてくされて途中で帰ったりして、自分でもすげーガキだと思って呆れてる。ヒヨコさんのメールもちゃんと読んで、誤解だって分かったのに……今度はどうやって謝っていいか分かんなくて返事も返せなくて」
申し訳無さそうに紡ぐ言葉は男の子らしい純真な不器用さで溢れていて、私の母性本能をこれでもかと締め付けた。抱きしめて頭を撫で繰り回して頬ずりしたい衝動を抑えながら、年上らしい冷静さを心がける。
「謝らないで、頭上げてよ太一くん。デート中にあんな場面見せられて怒らない方がどうかしてる。悪いのは私だよ。無神経な事して本当にごめんなさい」