大人の恋はナチュラルがいい。
彼のように美しい最敬礼ではないけれど、それでも心を精一杯籠めて下げた頭を戻すと、太一くんは口元に手を当てながら切なさを押し殺した表情をしていた。
「……良かった、仲直りできて。これで駄目になっちゃったらどうしようって、昨日全然眠れなかった」
確かに、言われて気付くほんのりと血色の良くない顔色。悩んで途方に暮れていたのは私だけじゃない、一緒だったんだと思うと、いじらしい彼の性格にじわじわと愛しさが込み上げてくる。
「私もだよ。今日もずっと太一くんと仲直りしたいって考えてた」
湧き出る愛しさに抵抗せず顔を綻ばせれば、それに応えるように彼もようやく目元を柔らかに緩めた。そしてお互いの安堵を確かめるようなわずかな沈黙の後、太一くんは少しだけ顔を俯かせ表情が見えないよう陰影を落とした。
「俺……本当にヒヨコさんの事ずっと好きで。何ヶ月も前からデートに誘おうって決めてたのにヘタレてなかなか誘えなくて。だからやっと勇気出してデートの約束出来たの本当に嬉しかったから。だから……ヒヨコさんが他の男とイチャついてるの見て物凄いショックだったんだ」
時折ためらいながらも素直に吐露された言葉からは、私の馬鹿な行動を責める色は無く、ただ痛いほど純真な想いしか感じられなかった。けれど、だからこそ、それを傷つけてしまった事がこんなにも胸を締め付ける。
「本当に……ごめんね」
「ううん、ヒヨコさんを責めてるんじゃなく………ただ、」
ふっと、鼻をかすめた香りはフゼアのラストノート。清潔感のあるソープの香りの中に微かに甘さを感じた。それが彼の纏っているトワレだと頭が認識したのは、見た目よりずっと力強い腕が私の背中をぎゅっと抱き寄せた時だった。