大人の恋はナチュラルがいい。

 ランチボックスとメイソンジャーサラダを袋に手早く入れながら交わす会話は、客と店長を装いながら微かにイチャつく。仕事中という緊張感のある中でほのかに味わえる甘さが心地好いのだ。なのに。

 テイクアウトの袋を受け取った太一くんは、周囲を見回し誰もこちらを向いていない事を確認すると

「じゃあまた。仕事頑張ってね、ヒヨコさん」

 ふいに腕を伸ばし、私の頬をフニフニっと指でつついて微笑んだ。突然の甘いふれあいに、無防備だった胸が音を立てて大きく跳ねる。太一くんは新緑の景色に溶け込むが如く爽やかに去って行き、残された私はひとり顔を赤くしながらぎこちなく業務を継続するのだった。


「見ましたよー。さりげなーくイチャイチャしてるとこ」

 ランチボックスを完売させて店に戻ると、キッチンで洗い物をしていた理緒ちゃんにさっそくツッコまれた。まさか目撃者がいたとは、ただでさえ年下に一方的に翻弄されて恥ずかしかったのに理緒ちゃんにバッチリ見られていたなんて、もはや店長の沽券に関わってくる事態である。

「あれはその、た、太一くんが勝手に。も、もう、仕事中なのに困っちゃうよね」

「なに動揺してるんですか。いいじゃないですか、仲が良くって。付き合いたてでイチャイチャしたくてたまんないって感じで微笑ましいですよ」

 どうやら沽券はすでに失われていたようだ。3つも年下の理緒ちゃんにまるで高校生カップルを見るような目で微笑まれて、私はぐうの音も出ないまま洗われた食器を棚へ丁寧に戻した。
 
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