大人の恋はナチュラルがいい。
「ぬ、濡れにくいって……だって……そんなもんどうやってケアするの」
もはや私の顔は蒼ざめている。店内は窓から差し込む初夏の日差しで温かいはずなのに、告げられた世にも恐ろしいアドバイスのせいで、腕にはぞわっと鳥肌までたっていた。
久々の恋をしてこれから女の本領発揮という所で、まさか全ての根底を覆しかねない警告を受けるとは。頭には一瞬で過る、太一くんと初めて迎える夜がひどく白ける未来予想図が。
恐怖におののく私をやれやれと言った様子で一瞥すると、理緒ちゃんは泡の着いた手をぺーパータオルで拭ってからこちらに向きなおし、改まってアドバイスを説いた。
「だからー、日頃からちゃんとイソフラボンやプラセンタ摂取したり、腰周りのマッサージしたりー、あとは――」
昼間にも仕事中にも似つかわしくないアダルトかつ保健体育的な話題は次のお客さんが来店するまで続き、私は仕事をしながら彼女の教えを繰り返し反芻して頭に叩き込んだのであった。
***
「あれ?」
翌日の夜。仕事を終えたあと一緒に食事の約束をした太一君は、待ち合わせ場所に立っていた私の姿を見つけて嬉しそうな驚きの声をあげた。帰宅の通勤客で賑わう駅のコンコースを、私に視線を縫い付けたまま真っ直ぐ小走りで近付いてくる。
「ヒヨコさん、スカートだ」
30センチほど手前で足を止め目線を下から上へと移動させながら、最後は顔を見つめてニコリと微笑まれる。波打ったリップラインの形が嬉しさを噛みしめてるように見えて、私は今日のファッションがどうやら不評ではない事に安心した。