大人の恋はナチュラルがいい。

「毎日買いに来てくれる上リップサービスまでしてくれて、いいお客さんだよねぇ」

 しみじみと感嘆の声を零してしまった私に、隣で一緒にランチボックスの販売をしていた従業員の理緒ちゃんが数回ほど目をしばたいた。

「えっ、店長それボケてます?ツッコんでいいですか?」

「えっ、何その返し。私、今、ツッコまれるほどのボケをかました?」

「やだ、店長ってば本気で気付いてないんだ。女子力がややアレだとは思ってたけど、ちょっと想像以上にアレですね」

「やめよう理緒ちゃんやめよう。言葉濁されるとなんだか余計に傷付く。ハッキリ言っちゃってよ」

 私と違って女子力メキメキアップ中の理緒ちゃんは、ボリューミーな睫毛の瞳をこちらに向けパール入りリップで彩られた唇で含み笑いをすると、私の耳元に顔を寄せ小声で告げた。

「あのお客さん、店長に気があるんですよ。毎日足繁く通って一生懸命会話して褒めまくって、アピールしてるんです。どうして気付かないんですか?」

「なぬ?」

 あまりに予想外の言葉を受けてしまった故、サムライのような疑問符で返してしまった。色気のある話に色気の無い返事をした私に、理緒ちゃんが怪訝な目を向けている。しかし彼女はすぐに口元に含み笑いを戻すと

「デートに誘われるのも時間の問題ですよ。賭けてもいいです」

勝利を確信した強い口調でそう付け足した。

 しばらく“恋”と云うものに無縁だった私はどうにも理緒ちゃんが言った事態が飲み込めず、そんな事より手元のランチボックスの売れ行きが肉メニューと魚メニューで結構差がある事の方が気になっている始末だった。

  
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